仕事に疲れた社会人へ。佐藤究『QJKJQ』をおすすめする理由

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働く人へ

みなさん、今日も疲れてますか?

疲れているとき、本が読めないという人も多いですが、私は疲れているとき、ストレスが溜まっている時ほど、本が効くと思っています。

私は行きと帰りの電車で本を読んでいるので、

面白い本を読んでいるときは、行き帰りで辛い仕事をサンドイッチして潰してしまうような気持ちで耐えています。

仕事が終わって疲れて電車に乗って、本を開く。

そうするとすぐに別世界へ行くことができる。そんな没入本をご紹介します。

今回はネタバレありの記事ですが、物語の核心のようなネタバレはありませんのでご安心ください。

はじめに

――得体の知れない恐ろしいものがここにやってくる。ふいに、わたしはそう感じる。考えもしなかったものが。ここで何が起きているのかを知るために、まずわたしが幻から醒めなくてはいけなかった。

佐藤究『QJKJQ』講談社2018年251頁

今、ちょっと会社の人間関係が悪くて、というか、一人の同僚がずっと機嫌悪くてなぜか私が消耗してる。

そんな状態だから、「得体の知れない恐ろしいものがここにやってくる」という状況は、むしろ歓迎したい気持ちというか、

その恐ろしいものが私を変えてくれる。そんな他人任せではいけないんだけど、そう思うと取れる疲れもある。

殺し屋一家に生まれ育ち、自分の見てきたものを、殺人鬼である家族を信じて生きてきた主人公の女子高生は、ある事件をきっかけにして自分のすべてを疑い始める。

その先に何が待っているのか、自分を取り巻く世界の真実を知ることになった時、知らない方がましだと思うのか、どう変わるのか。

何か恐ろしいものの存在がすぐそばまで来ている。

そんな予感を、私たちが「期待」してしまうくらいには、今日疲れている。

著者とあらすじ

▼あらすじ
女子高生の亜李亜は、猟奇殺人鬼の一家に生まれ、郊外でひっそり暮らしていた。父は血を抜いて殺し、母は撲殺、兄は咬みついて失血させ、亜李亜はナイフで刺し殺す。ところがある日、部屋で兄の惨殺死体を発見する。翌日には母がいなくなり、亜李亜は父に疑いの目を……。第62回江戸川乱歩賞受賞の長編ミステリー。1

▼著者:佐藤究                                                       1977年福岡県生まれ。2004年に佐藤憲胤名義で書いた『サージウスの死神』が第47回群像新人文学賞優秀作となりデビュー。’16年、『QJKJQ』で第62回江戸川乱歩賞を受賞。’18年、受賞第一作の『Ank: a mirroring ape』で第20回大藪春彦賞および第39回吉川英治文学新人賞を同時受賞。さらに’21年、『テスカトリポカ』で第34回山
 本
周五郎賞と第165回直木賞のダブル受賞を果たす。’24年、『幽玄F』で第37回柴田錬三郎賞を受賞した。ほかの著書に『爆発物処理班の遭遇したスピン』がある。2

佐藤究さんの著作が好きでよく読んでいます。

記事も書いていますので、こちらもぜひ。

佐藤究おすすめ小説3選『テスカトリポカ』『Ank: a mirroring ape』『幽玄F』 | ひのとみ書店

佐藤究おすすめ全7作品|初心者はどの順番で読むべき? | ひのとみ書店

疲れていると人間は恐怖を感じない

おまえにかけているのは、恐怖心なのだよ。われわれに群がる投資家と同じさ。恐怖を感じない人生は、貧しいものだ。

佐藤究『QJKJQ』講談社2018年335頁

仕事でのストレスが最大値に達した時、失うものが一つある。

それが「恐怖」です。

仕事がしんどくて、クレームですり減って、同僚の嫌味に打ちのめされて、上司にからかわれて、

心と体の「疲労」が限界値に達した時、涙も出きってしまって、何もできなくなった時、

仕事以外の大抵のものは怖くない、という状態になる。

というか周りが見えていないんだろうな。そんな状態は危険ですよ。

殺人を怖がらない主人公の人生は「貧しいもの」そう父は言う。

疲れた人生を送り、何にも恐怖を抱かない人生が豊かなものであるとは言えないでしょう。

主人公は変わっていきます。殺人鬼である父によって。

『QJKJQ』は父から娘へ向けた教育の話であり、

主人公の自立への物語です。

厨二っぽさありのモチーフ

佐藤究さんの本が好きな理由はいくつかありますが、厨二っぽいモチーフがよく出てくるところが私は非常に好みです。

絶後の畏怖――高二世界史の史料集に載っていたこの言葉は、ダムナティオ・メモリアエを指して言われたものだ。授業を半分眠りながら聞いていたわたしは、そのページを開き、目を醒ます。

佐藤究『QJKJQ』講談社2018年42頁

例えば本書冒頭で、ダムナティオ・メモリアエという言葉が出てきます。

古代ローマにおいて、元老院に逆らった者が、完全に消えることで罰せられる、という刑罰を指すようです。

つまり、「その人物が生きた記録や痕跡の、ありとあらゆるものが、なかったものにされてしまう。たとえば硬貨に顔が刻まれる栄光を得た皇帝であれば、出回る硬貨から顔を削り取られる。3

早い話が、「そんな人いなかった」ということにされるわけです。

この主人公が好きそうな概念だなというのは読んでいて分かるし、佐藤究さんの本ではこういうカタカナがよく出てきますが、それがなんともおしゃれというか、ちょっとイタい、厨二心をくすぐられる。

そもそも殺し屋一家という、ハンターハンターのゾルディック家のような設定がまさにそうでしょう。

少年漫画やアニメが好きな人にはこういったモチーフは面白く感じると思います。

特に小難しい系のハンターハンターとか呪術廻戦とかお好きな方。

それにしてもこのダムナティオ・メモリアエ、最初は恐ろしいと思ったけれど、現代の平凡な社会人である私などは、何もしなくても「そんな人いなかった」になりそうで怖いというか。

むしろこのダムナティオ・メモリアエが怖くないかもと思ってしまいました。

投資家のための殺人人類学

ただし、この話は、真偽の怪しげな裏DVDとか、投稿動画のことじゃない。じっさいに起きた殺人事件を公的機関が撮影し、それを猟奇フィルムのように眺める一般人の投資家が存在する、ということだ。

佐藤究『QJKJQ』講談社2018年279頁

本編にちょくちょく「投資家のための殺人人類学」という章がはさまっている。

現実に起きた殺人事件の映像を投資家たちに見せる。そして人類学的見地にもとづいた殺人の謎に関する講義が行われる。

よく、デスゲームの目的も投資家への還元だったりするけど、人が死ぬところや見るべきではない映像を見るのはそんなに楽しいのでしょうか。

私も少額だけれど「投資家」です。

しかし、消えない「投資家」のこのイメージ。

多分彼らは疲れてるんだと思います。

お金を大量に稼ぐために、大量に働いているから疲れていて、何にも恐怖を感じなくなって、怖い映像も見れちゃうんだと思います。

投資家のために行われる殺人人類学ではどんなことが学べるのか、興味がある方もぜひ読んでみてください。

おわりに

さて、疲れた人におすすめの本『QJKJQ』をご紹介しました。

最期に、有栖川有栖さんの書評をご紹介します。

主人公が「あるもの」を発見したところから物語はどんどん転がり始め、ファンタジーかと思うような広がりを見せて、ナンセンスな法螺話になる寸前で身を翻し、主人公のアイデンティティを攪乱させたかと思うと、人類の原罪を剔抉せんとしてミステリ的に意外な真実へ収斂するという具合で、読む者を引き回す

佐藤究『QJKJQ』講談社2018年386頁

この中で「ナンセンスな法螺話になる寸前で身を翻し」という部分が個人的にとてもしっくりと来ました。

さすがにこれはないだろ~と思う手前くらいで、話がリアルに戻ってくる。

単なる空想ではなく、私たちのいる現実もそうなのではないか、と思わせてくる。

そういう力強さがある小説です。

佐藤究さんの小説はどれも素晴らしい作品ですので、ぜひ読んでみてください。

そういえば、今後シーズン2が始まる「VIVANT」というドラマがありますが、

ここで描かれる別班と、『QJKJQ』にでてくるCa→Abという組織はちょっと似ていると思いました。

別班のような本当に存在するのか分からない、都市伝説のような国防の組織に興味がある方にもぜひ読んで欲しい本です。

「VIVANT」も疲れているときに見ると適度に現実逃避できる良いドラマです。

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さてみなさん、誰に何と言われようとも、ご機嫌で一日を過ごしたもの勝ちです。

明日も楽しく行きましょう!

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本日ご紹介した本

あわせてよみたい

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  1. 佐藤究「QJKJQ」特設サイト|講談社文庫 ↩︎
  2. 『トライロバレット』(佐藤 究)|講談社 ↩︎
  3. 佐藤究『QJKJQ』講談社2018年42頁 ↩︎

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