本屋大賞ノミネート作品全部読む。
前回の『殺し屋の営業術』に続いて読んだのは森バジルさんの『探偵小石は恋しない』です!
この本の存在は書店やXで評判になっていたから知っていて、
すっと読もうと思っていたけど、最近ミステリをあんまり読んでいないせいもあって後回しになっていた作品です。
読んでみてとっても今時な作品というか。
これもドラマや映画映えしそうな作品だなあと感じました。表紙もとてもかわいいし。
どんでん返し系のミステリあるあるで表紙には「そのひと言で、世界が一変する」「絶対に事前情報なしでお読みください」と煽り文句が並ぶけれど、
タイトルの『探偵小石は恋しない』でなんとなく女性探偵の恋愛が関わる話、というところまで推測できるから手に取りやすい。
事前情報なしで、というのは分かるんだけど、まったくなかったら読もうと思わないからね。
いや、真っ白な表紙に「事前情報なしでお読みください」とだけ帯にあったら、逆に読みたくなるか。

- 「暁星」湊かなえ/双葉社
- 「ありか」瀬尾まいこ/水鈴社
- 「イン・ザ・メガチャーチ」朝井リョウ/日経BP 日本経済新聞出版
- 「失われた貌」櫻田智也/新潮社
- 「エピクロスの処方箋」夏川草介/水鈴社
- 「殺し屋の営業術」野宮有/講談社
- 「さよならジャバウォック」伊坂幸太郎/双葉社
- 「熟柿」佐藤正午/KADOKAWA
- 「探偵小石は恋しない」森バジル/小学館
- 「PRIZE―プライズ―」村山由佳/文藝春秋
著者とあらすじ
▼著者 1992年宮崎県生まれ。九州大学卒業。2018年、第23回スニーカー大賞《秋》の優秀賞を受賞。2023年、『ノウイットオール あなただけが知っている』で第30回松本清張賞を受賞し、単行本デビュー。他の著作に『なんで死体がスタジオに!?』がある。
▼あらすじ ネタバレ厳禁。驚愕体験の本格ミステリ!
小石探偵事務所の代表でミステリオタクの小石は、名探偵のように華麗に事件を解決する日を夢見ている。だが実際は9割9分が不倫や浮気の調査依頼で、推理案件の依頼は一向にこない。小石がそれでも調査をこなすのは、実はある理由から色恋調査が「病的に得意」だから。相変わらず色恋案件ばかり、かと思いきや、相談員の蓮杖と小石が意外な真相を目の当たりにする裏で、思いもよらない事件が進行していて──。

『探偵小石は恋しない』特設サイトには登場人物のイラストが載っています。蓮杖くんイケメンすぎやろ・・・読み終わった後に見たからちょっとイメージと違ったけど、これはこれで良し。
期間限定でリバーシブルカバーの企画もやっていたらしい。ほしかった。
既に買って読んでしまった本のサイン本とか後で書店で見つけると買うか本当に迷う。困る。
恋愛に関する提言
こういうミステリの感想は難しい。
もう読み終わった人に向けて書く時はミステリの核となる部分、結末や犯人などに触れてもいいと思うけれど、今回はミステリの部分というよりも本全体の感想に留めようと思う。
ネタバレは少なく書きますがゼロではありません。
蓮杖くんの好きな少女漫画もだけど、小説もドラマも映画も音楽もバラエティも、何なら居酒屋の酔っぱらいとか修学旅行の夜の高校生が枕元で語るトークテーマも、ぜーんぶ恋愛ファンたちが主体になってるじゃん。恋愛前提じゃん。そういうの全部ピンとこない。
森バジル『探偵小石は恋しない』小学館2025年136頁
本書の主人公、ミステリオタクの私立探偵、小石は色恋に関する調査が得意である。
それは彼女が、誰が誰のことを好きなのか矢印によって分かるから、である。
そういえば、以前読んだ『婚活マエストロ』1にも似たような能力を持つ人物が出てきたが、彼女も小石もうまいこと仕事に生かしていてうらやましい2。
しかし小石は人の恋愛のことが分かるだけでなく、自分に向けられた好意も分かるため、今までさんざん歪な思いを向けられて恋愛を忌避するようになっていた。
といいつつも、恋愛を嫌う割には小石はモテモテである。あるあるだよね・・・。
そんな小石をうらやましくも思うのだが、彼女の恋愛に関する意見にはおおむね同意である。
今まで私も学生時代を通じて恋愛の話題にはついていけないことが多く、
ただ周りが盛り上がっているその輪の中には入りたかったから無理をして話を聞いたり、自分のことを話そうとしたけれど
やっぱり根本的に興味がないから、それもうまくいかなかった。
自分のところにはそういう恋愛系の話があまり流れてこなかったり、誰かと恋愛の話になることが少なかったりしたことがコンプレックスだった時代もあったけれど、
途中からはどうでもよくなった。
自分が根本的に恋愛に興味がないと気づいたし、自然と周りにいる友達も同じような人が増えて(自分で選んでいたのかもしれないし、そういう価値観でも気が合う友達ということなのかもしれない)。
それに、興味がないものは仕方がないので気長に興味がわくまで待つことにしたのである3。
小石のようにはっきりと恋愛に興味なし!といえるのはそれはそれで読んでいて気持ちがいい。
結構強がったことも言うし、ミステリに出てくるような事件を解決したいと公言するだけあって頭もいい。
優秀な探偵とはやはり観察眼が違う。人をよく見ている。そんな探偵である小石だが、弱い一面も合わせもつ。
そこが本書のミステリの肝にもなっている。
私はだいだいこういう叙述ミステリ系のトリックにしっかりハマるタイプ(ちゃんと騙されるタイプ)であるが、今回もちゃんと騙された。
騙されないためには、読み進めながら感じる違和感を放っておかないこと。
そう意識したうえで、きちんと騙されてください。
偏見と叙述ミステリ
「先入観って、ようは無意識のうちの確率計算だよね」
森バジル『探偵小石は恋しない』小学館2025年151頁
本書の核は偏見によってつくられる叙述ミステリである。
とにかくミスリードされまくる。
過去と現在と名探偵による推理によって、私たちは自分が偏見でもって物事を見ていたことを思い知らされる。
まさにどんでん返しのミステリであり「そのひと言で、世界が一変する」という帯の煽りもおおげさなものではない。
本書はわれわれのもつ偏見を存分に利用してくる。
近年、アンコンシャスバイアスという言葉が広く使われるようになったように、自分が気づかずにいるものの見方や捉え方の歪みや偏りに自覚的になろう、とする風潮がある。
男女や国籍、貴賤などに起因する無意識な差別をなくすため、偏見や先入観は悪、とされることが多い。
例えば、電車でかたくなにお年寄りに席を譲らない若い女がいて誰かがそれに憤ったとき、実は席を譲らなかった女は妊婦だった。など、妊婦であることが想像できない、先入観で若い女を責めるという愚かな行動をしたものが過度に責められる構図が描かれることがある。
しかし、妊婦であると見抜けなかったその人は、先入観や偏見の塊、つまり悪なのであろうか。
最近はXなどで、こういう先入観でしかものを考えられない人をバカにするような風潮がある。
なんか嫌な感じ~と思っていたが
本書の主人公小石は、先入観とは無意識の確率計算であると言う。
私たちはなにもネットで拾った真偽不明な情報をもとに、物事を判断しているわけではない。
医者と言われたら、自分が今まで会ったことのある見聞きしたことのある医者の中で、一番割合の高かった姿を思い浮かべる。その姿が男性であることは、そんなに悪いことなのか。
偏見や先入観はそれだけで悪なのではなく、それを人に強制したり、それをもとに差別をしたりすることが問題なのである。
確かに、ずっと同じ偏見を持ち続けてはいけなくて、アップデートはしていかなくちゃならない。
けれど、私は今回自分の偏見のおかげで本書を楽しむことができたのである!
名探偵に憧れて
普通に話すと二分で推理が終わってしまうので、とにかく何かしら話す分量を水増ししながら、ただし正確に取捨選択しながら、ゆっくりと語る。推理披露には“ぽさ”が重要だ。
森バジル『探偵小石は恋しない』小学館2025年224頁
自分の先入観によるどんでん返しをたっぷりくらうには、ミステリのトリックだけでは物足りない。
名探偵が必要なのである!
小石も蓮杖も名探偵をちゃんと意識している。
なんか、分かる。名探偵とは、ただ存在して推理すればいいのではなく!
名探偵っぽさが必要なのであると。
そんな読者への粋な計らいを存分に楽しむ頃には、本書も名推理を終えて終盤に差し掛かってくるだろう。
正直なところ、私が最近ミステリを好んで読まなくなったのは、トリックがそろそろ出尽くしたと思ったからである。
ミステリを本だけでなく、漫画やドラマ、映画などでたくさん見ていると、どうしてもこのトリックは、あの作品と一緒だ、きっと結末はこうなるだろう、など先が読めてしまったりする。
また最近の日本のドラマもそうだが、やたらと伏線伏線で話がとても細かくなる。
『探偵小石は恋しない』も3人の依頼者の色恋案件、蓮杖の過去篇、解決篇、に分かれ、それぞれが交差しながら最後の推理になるが、とてもこの本の厚さからは想像できないほどの事件数というか、取り扱われているものが多く、よく言えばボリューミーでたくさんの推理を楽しめるんだけど・・・
そういう作品は盛りだくさんで面白いんだけどね。
とはいいつつも、最後のシーンはとても好きだった。
全体を通じて小石ちゃんの負担が大きすぎて大丈夫かなと思ったけれど
最期のシーンで、たぶん大丈夫と思えたのがよかったよね!
- さっぱり読みやすい婚活入門小説が読みたい『婚活マエストロ』宮島美奈にて『婚活マエストロ』を取り上げています。『成瀬は天下を取りに行く』で有名な宮島美奈さんの本ですね。キャラクターの一人が小石と同じく誰が誰のことを好きなのか分かるというタイプの能力者です。しかし彼女は年と共にその能力が衰えていっているみたいですが、小石もそうなるのでしょうか。
↩︎ - しかもなぜ若くして私立探偵として独立できているのか気になりすぎる。年もあんまり違わないよね?私は誰かと一緒に働くことが向いていないと感じてからじゃあ独立だとなって、どうすれば独立できるのかについてずっと考えているのに!
↩︎ - まさに熟柿!ということ。これを書いている時にはすでに7冊目の熟柿を読み終わっています。 ↩︎



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