みなさん、お疲れ様です。
本日ご紹介するのは木野寿彦『降りる人』という小説です。
小説野生時代の新人賞を受賞されている作品で、帯にそうそうたる作家さんの紹介文がのっていたので、それだけで読んでみたくなります。
本作は、心身ともに疲弊して仕事をやめた主人公が工場の期間工として働き始める、その日常を描いた作品です。
私は「心身ともに疲弊して仕事をやめる」その先の人生に興味があります。
もちろん、仕事に心を壊されるなんてことあっていいはずがないし、そうなるまで無理に働く必要なんてどこにもないと思います。
だけど、仕事がつらくても働き続けるという選択肢しか取れない人、その気持ちはよく分かります。
これは『死んだら永遠に休めます』という小説でも詳細に描写されていますね。
だからこそ、そのつらい仕事を辞めた先になにがあるのか、どんな人生が待っているのかは、そうなったかもしれない自分の未来として想像の幅を広げてくれます。
本書では、主人公が工場で働くことになる前に何があったのか、なぜ仕事で疲弊することとなったのかについてはほとんど描かれません。
でも、だからこそ、彼の期間工としての日常を通して、主人公の仕事に対する諦めや、深い悲しみが伝わってくるように感じました。
彼はなぜ「人間とは思われない、ほとんど透明1」な仕事である期間工を選んだのか
その答えとその先にある人生を体験してみてください。
著者とあらすじ
▼著者 1983年生まれ。福岡県出身。九州大学文学部卒業後、工場勤務や事務職を経験。2025年、本作『降りる人』で第16回小説野生時代新人賞を受賞し、デビュー。
▼あらすじ 心身ともに疲弊して仕事を辞めた30歳の宮田は、唯一の友人である浜野から、期間工は人と接することの少ない「人間だとは思われない、ほとんど透明」な仕事だと聞き、浜野と共に工場で働くことに。
絶え間なく人間性を削り取られるような境遇の中、気付けば人間らしい営みを求めるようになっていく宮田だったが、実はある秘密を抱えており――。
選考委員の胸を打った、第16回小説野性時代新人賞受賞作!2
降りる人とは
降りる人と書いて降人だ。俺にとっての降人がどういう存在か伝えるのは難しいが、要するに、降りるということを選択した存在だ。
木野寿彦『降りる人』KADOKAWA2025年59頁
本書のタイトルにもなってる降りる人は何なのか。
主人公の友人である浜野は、降りる人を「自ら降りることを選んだ存在である」と定義づける。
では降りるとは、どこから降りることなのだろうか
やめる、とは違うのだろうか
俗世を捨てて修行に励むことや全く別の世界へ行くことではないのだろうか
本書は主人公の迷いと悲しみの物語と感じたが、唯一の友人として登場する浜野の存在により一種の希望というか明るさを感じる作品になっている。
降りる人は、そうなることを自分で選んだ存在である、ということが強調される。
私は、この「自分で選ぶ」というのがとても大切だと思っている。
今まで私達にはたくさん選ぶ機会があった。
だけど、それは本当にあなたの意思で選んだのだろうか?
例えば、予期せぬ異動や配置換えは会社の意思であろうし、今のつらい仕事を続けているのも親や配偶者の思いがそれを選ばせていたりする。
誰かに選ばされているのではなく、自分で降りることを選ぶ。
本書を読んでいていて「降りる」という話をしているのに、「選ぶ」ということ自体はとても前向きな行為であることがとても不思議に思えた。
「降りる」ことを「選ぶ」ことは負けることや諦めることとも違う。
その前向きな要素を本書にも感じることができた。
とても不思議な感じがする、じわっと広がっていくような小説です。
みなさんもぜひ読んでみてください。
- 木野寿彦『降りる人』KADOKAWA2025年17頁 ↩︎
- 「降りる人」木野寿彦 [文芸書] – KADOKAWA(2025年11月) ↩︎


コメント