本日は佐藤究さんの小説からおすすめを三冊ご紹介します。
なぜ佐藤究の小説なのか。
それは、作家で作品を買うほど好きな作家さんだからです。
佐藤究さんの本であれば問答無用で買いです。
佐藤さんと言えば『テスカトリポカ』で第165回直木賞を受賞したことで有名です。
▼著者:佐藤究 1977年福岡県生まれ。2004年に佐藤憲胤名義で書いた『サージウスの死神』が第47回群像新人文学賞優秀作となりデビュー。’16年、『QJKJQ』で第62回江戸川乱歩賞を受賞。’18年、受賞第一作の『Ank: a mirroring ape』で第20回大藪春彦賞および第39回吉川英治文学新人賞を同時受賞。さらに’21年、『テスカトリポカ』で第34回山本周五郎賞と第165回直木賞のダブル受賞を果たす。’24年、『幽玄F』で第37回柴田錬三郎賞を受賞した。ほかの著書に『爆発物処理班の遭遇したスピン』がある。1
佐藤さんの作品はどれも、ダークな世界観と膨大な知識量、興味深いテーマ、そして圧倒的な熱量という特徴があり、大好きな作家さんです。
分かりにくく難しそうなテーマと言われることも多くて、私の周りの同僚や友人に紹介しても読んでもらえないことがほとんどですが
もし共感してくださる方がいらっしゃればうれしいです。
ちなみに私は
『QJKJQ』→『Ank: a mirroring ape』→『テスカトリポカ』→『爆発物処理班の遭遇したスピン』→『幽玄F』→『トライロバレット』→『サージウスの死神』の順で読んでいます。
『テスカトリポカ』が直木賞を取った時に知った作家さんでしたが、当時私はお金がなく、文庫本が出ていた『QJKJQ』から先に読みました。
佐藤さんの作品では『QJKJQ』『Ank: a mirroring ape』『テスカトリポカ』をまとめて鏡三部作と言ったりもするみたいですが、すべて独立した物語なのでどの作品から読んでも問題ありません。
あらすじでも表紙でも気になったものから読んでみるといいと思います。
このまま話していても一記事できてしまいそうですが、おすすめを紹介記事ということで最後に一点だけ、佐藤さんの小説の特徴を一つ。
それは、参考文献に裏打ちされた膨大な知識量が詰め込まれているということです。
これは『テスカトリポカ』という小説に参考資料として載せられている文献の一部です。合計三ページにわたってかかれています。

佐藤さんの小説では、現実世界の宗教や科学、歴史などに基づいて創作がされているので、どこまでが現実のことでどこからが創作なのかの境目が読者には判別がつかないほどです。
『Ank: a mirroring ape』には学術論文のような記述も出てきます。
そのため我々は現実世界の延長線上にある、よりリアルなフィクションを楽しむことができます。
さて、長くなりましたが大好きな作家さんである佐藤究さんの小説から無理やり選んだおすすめ小説三選をご紹介いたします!
①煙を吐く鏡『テスカトリポカ』
▼あらすじ メキシコで麻薬密売組織の抗争があり、組織を牛耳るカサソラ四兄弟のうち三人は殺された。生き残った三男のバルミロは、追手から逃れて海を渡りインドネシアのジャカルタに潜伏、その地の裏社会で麻薬により身を持ち崩した日本人医師・末永と出会う。バルミロと末永は日本に渡り、川崎でならず者たちを集めて「心臓密売」ビジネスを立ち上げる。一方、麻薬組織から逃れて日本にやってきたメキシコ人の母と日本人の父の間に生まれた少年コシモは公的な教育をほとんど受けないまま育ち、重大事件を起こして少年院へと送られる。やがて、アステカの神々に導かれるように、バルミロとコシモは邂逅する。2
佐藤究さんの代表作でいいんじゃないでしょうか。
ハードカバーの帯付き表紙が好きです。
佐藤さんの本はどれも装丁がすばらしい。特に『テスカトリポカ』の表紙が好きで不気味さや神々のまがまがしさをよく表現していると思う。
▼テスカトリポカとは・・・ 多神教のアステカ王国において信仰されていた強大な神の一人。
ナワトル語で「煙を吐く鏡」を意味し、闇を支配するとされる。毎年5月の乾季、この神をたたえる盛大な儀式がとりおこなわれ、生贄として少年の心臓が捧げられた、と伝えられている。アステカ王国では「夜と風」(ヨワリ・エエカトル)、「われらは彼の奴隷」(ティトラカワン)とも呼ばれていた。
本を読み終わったからといって理解できるものでもないけど、つまりアステカで信じられていた神様のことです。
本書には麻薬密売や臓器売買を行う人物が登場する。主に悪とされる人物たちも、
生きるために、信じているもののために、欲しいもののために、戦っているだけだったりする。
そしてそれらの積み重ねが本書の悲劇へとつながっている。
本当に恐ろしいのは、彼らが行うビジネスや暴力・殺人に論理が存在することである。
納得させるだけの根拠、理由が語られる。それは絶対に間違った結論を導くことを知りながら、圧倒的な恐怖を前に私達はただ黙ってみていることしかできない。
表紙から読み取れる印象そのまま「圧倒的な悪夢と祝祭」を楽しめる自信のある方におすすめです。
どっぷりとのめりこむ強烈な読書体験ができることは保証します。三冊の中で本自体が持つパワーが最も大きいのは間違いなく『テスカトリポカ』でしょう。
角川の『テスカトリポカ』特設ページでは第一部が試し読みできるようです(2025年11月現在)
②京都暴動ライオットと類人猿『Ank: a mirroring ape』
▼あらすじ 2026年、京都で大暴動が起きる。京都暴動(キョート・ライオット)──人種国籍を超えて目の前の他人を襲う悪夢。原因はウイルス、化学物質、テロでもなく、一頭のチンパンジーだった。未知の災厄に立ち向かう霊長類研究者・鈴木望が見た真実とは……。吉川英治文学新人賞・大藪春彦賞、ダブル受賞の超弩級エンタメ小説!3
2026年というと来年だ!
京都で暴動がおきます。それは人々がゾンビのようになって目に入った人を襲い始めるという、こちらも悲劇。
暴動の様子が詳細な筆致で描かれるのでグロテスクな描写が苦手な方はやめておいた方がいいかもしれません。また、京都の地名がいくつか出てきますので、実際の場所をご存じの方はより楽しめます。
なぜ暴動が起きたのか?を解明していく物語ですが、
ミステリーというよりも科学、生物学の話に近い。生物学に精通しない私には、本当の進化の話なのかなと思うほど詳細に説得力を持たせた論文草稿も登場して
同時進行する暴動をそれを止めようとするラストシーンの緊迫感など、緩急があり、読みごたえがあります。
映像化は難しいとは思いますが、ゾンビパニック映画が好きな方にもおすすめです。
かっこいいアクションのシーンは私の頭で想像するよりもぜひ映像化してもらいたいですね。
これはSFに分類されると思うので、SF好きな私に刺さったのだと思いますが、『幽玄F』を読むまではこれが佐藤究さんの本の中で一番好きだったかもしれません。
エンターテイメント性が強く『テスカトリポカ』よりも難しくなく読めると思います。
文庫しかもっていないからハードカバー版も欲しいなあと思っています。
講談社の『Ank: a mirroring ape』特設ページでは恩田陸さんと佐藤究さんの対談記事も掲載されています。
③戦闘機で空を飛ぶ『幽玄F』
▼あらすじ 空と、血と。――空を支配する重力・Gに取り憑かれ、戦闘機F35-Bを操る航空宇宙自衛隊員・易永透。日本の戦後、そして世界の現在を問う、直木賞受賞第一作にして超弩級の著者最高傑作。天才パイロットが戦闘機Fと共に辿る、数奇な運命とは――。
「ただ私は戦闘機という機械に乗りたかっただけで、その戦闘機の飛ぶ空が〈護国の空〉だったのです」
構想5年、直木賞・山本周五郎賞W受賞の『テスカトリポカ』から2年――。
日本の戦後精神の支柱「三島由紀夫」に挑んだ、佐藤究・圧巻の第4長篇4
佐藤究さんの本は全部大好きだという前提をしたうえで、『幽玄F』が最も好きかもしれない。
しばらく戦闘機にハマってしまい。本を買ったり動画を見たり、航空祭に行ったりした。
また、読んですぐ三島由紀夫のことをほとんど知らないことを後悔した。
生粋の読書家でもない私は、三島由紀夫に関して学校の授業で習ったくらいの知識しか持ち合わせていなかった。
なにかを追い求めるのではなく、つねになにかにおびき寄せられ、なにかに絞めつけられているような人間、それこそが天才だった。
佐藤究『幽玄F』河出書房新社2023年297頁
『幽玄F』は戦闘機という乗り物に魅せられた天才パイロットの話である。
前2作と異なり一人の主人公の一生を描いており、自衛隊員としての前半と自衛隊をやめたあとの後半のシンプルな構成である。
しかし佐藤究らしさもたっぷりとあり、仏教や三島由紀夫のモチーフを取り入れながら一人の男の人生を追っていく。
特に前半はパイロットとしての才能を開花させていく話が中心であるのに、どこか不気味さがつきまとう。
そんな不気味さとその後の展開をぜひ楽しんでください。
こちらも素晴らしい装丁なのでぜひハードカバーで買って読んでみてください。
佐藤究の本はとっても重たい。
もちろん本の厚みをみてもとっても重たいけど、なにより物語が一筋縄ではいかない。『幽玄F』も一見シンプルな物語だが、様々なものが折り重なることで重厚な物語となっている。
これは本日紹介した3冊以外にも当てはまる特徴で
それが「読みごたえ」につながっている。
作者さえも消えて、何千何万年も残れるのか。
佐藤 究「Ank:a mirroring ape」特設ページ|講談社文庫
佐藤究さんのライバルはピラミッドとのこと。
つまり作者が消えても何千何万年も残るような作品を書くことだという。
佐藤究さんの作品からは、他の作品にはない「質量」を感じることができる。
そんな重厚な読書体験をぜひ多くの人にしてほしい。
私ももっと体験したい。
次がいつなのか分からないけれど、新刊がでるのを楽しみに待とうと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
- 『トライロバレット』(佐藤 究)|講談社より抜粋(2025/11/23) ↩︎
- 佐藤究『テスカトリポカ』特設サイト | カドブン(2025/11/23) ↩︎
- 佐藤 究「Ank:a mirroring ape」特設ページ|講談社文庫(2025/11/23) ↩︎
- 幽玄F :佐藤 究|河出書房新社(2025/11/23) ↩︎



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