『法廷占拠 爆弾2』呉勝浩|あらすじ・感想

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こってり

最近、映画『爆弾』を見た。

スズキタゴサク役の佐藤二郎さんのあの何とも言えないいやらしさ、うるさい、ほんとうによくしゃべる。

類家は、3年前に読んだ小説での印象だと、結局スズキタゴサクに勝てなかった頭脳派というイメージでしたが、こちらも得体の知れない天才という役どころを山田裕貴さん、ばっちり演じていました。

数年前だったら、この役は染谷将太がやっていてもおかしくなかったなあと思いましたが、

渡部篤郎さんの圧倒的上司感、キャリア組刑事感はたまりませんでしたね。

そんな映画を楽しみつくしてから、本屋に立ち寄ると爆弾2『法廷占拠』が目に入り、映画特別カバーだったのでつい買ってしまいました。

スズキタゴサクが帰ってきました。

3年前に『爆弾』を読んで、すでに内容をほとんど忘れてしまっていても映画を見れば問題ありません。

『法廷占拠』、前作『爆弾』に負けるとも劣らない良作です。

ぜひ読んでみてください。

著者とあらすじ

▼著者
呉勝浩(ご・かつひろ) 1981年青森県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業。現在、大阪府大阪市在住。2015年、『道徳の時間』で、第61回江戸川乱歩賞を受賞し、デビュー。’18年『白い衝動』で第20回大藪春彦賞受賞、同年『ライオン・ブルー』で第31回山本周五郎賞候補、’19年『雛口依子の最低な落下とやけくそキャノンボール』で第72回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)候補、’20年『スワン』で第41回吉川英治文学新人賞受賞、同作は第73回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)も受賞し、第162回直木賞候補ともなった。’21年『おれたちの歌をうたえ』で第165回直木賞候補。他に『ロスト』『蜃気楼の犬』『マトリョーシカ・ブラッド』などがある。1

▼あらすじ
未曾有の連続爆破事件から一年。
スズキタゴサクの裁判の最中、遺族席から拳銃を持った青年が立ち上がり法廷を制圧した。
「みなさんには、これからしばらくぼくのゲームに付き合ってもらいます」
生配信で全国民が見守るなか、警察は法廷に囚われた100人を救い出せるのか。
籠城犯vs.警察vs.スズキタゴサクが、三つ巴の騙し合い!2

立てこもり犯×警察×スズキタゴサク

「死刑の是非を論じるきはありません。なくしたければなくせばいい。だが、ある以上、それはルールに則って成されるべきだ。ゆえにぼくは要求します。ただちに死刑を執行せよ。ひとりの処刑につき、ひとりの人質を解放します。(後略)」

呉勝浩『法廷占拠 爆弾2』講談社2024年56頁

前作の『爆弾』小説でも映画でもすでにみた方にはよく分かるはず、スズキタゴサクはよくしゃべる、関係あることもないこともまとめて話術で翻弄する。

『爆弾』では、主に取調室でのスズキタゴサクと刑事の舌戦が中心であったが、

今回はスズキタゴサクの裁判の最中に別の犯人:柴咲によって傍聴人を人質に取った立てこもり事件が発生する。

そして、今回の事件の中心である犯人の柴咲、彼もまたよくしゃべる。

見事なまでに、適度に冷酷で適度に理性的。

100人ほどの人質に恐怖を与えパニックになることを防ぎつつ、行動を制御していく。

警察との交渉では、流れは終始、犯人側の柴咲優位で進む。その鮮やかすぎる手口、知能犯罪は読者に恐怖を抱かせる半面、

この手の犯罪がたとえフィクションであっても最終的にはうまくいかないことが多い、ことを理解しているから、急に現れたこの犯罪者の知性にどうしたってわくわくしてしまう。

さらに本書はそれだけでは終わらない、前作でお馴染みの類家も登場する。

立てこもり犯の柴咲×類家を擁する警察

そして予測不可能なスズキタゴサクを交えた緊張感のある頭脳戦が繰り広げられる。

柴咲の巧妙な手口

「そして次にはこういうんだ。お前よりもっと不幸せな人間がいる―。馬鹿なのか?だったらなぜ、その『もっと不幸せな人間』を放置しているんだよ。もっと不幸せな人間の下に、もっともっと不幸せな人間がいるんだろ?もっともっともっとってつづくんだろ?だから我慢しろって?ふざけんな。付き合ってられるかよ」

呉勝浩『法廷占拠 爆弾2』講談社2024年222頁

立てこもり犯の柴咲は自分の身元を明かす。

あくまでこの世の中のルールの中で戦うのだと。事件を起こしたことや人を痛めつけ傷つけたことに対する相応の罰を受ける、とすることで自身の行動を正当化する。

そういう話をする。

だけど、それすらも結局本当の目的の目くらましだった気がする。

柴咲の話には一考の余地があるものが多かった。

死刑制度や不遇な境遇に生まれた子ども、親の罪を背負わされた未成年、貧乏ゆえに努力しても報われない悲しみ、

それらは哲学的な話も含み、警察だけでなく、事件の配信を見ている視聴者、そして私たち読者をくぎ付けにする。

犯罪は、本人の性格や欲望に起因するのではなく、彼を取り巻く環境が大きな影響を及ぼしているとする考えがある。

柴咲はまさに自分で自分の不遇な環境を語る。

このように犯罪を起こさねばやっていけないような境遇に生まれたこと。

そんな環境を生み出したのは、そしてそれを放置したのはお前らだと、私たちを指さすのだ。

彼の言動はあくまで目的を達成させるためのものだろう。

だが、同時に彼の魂の叫びでもあるから、聞き入ってしまう。

そうして聞き入ってしまうことであらゆることを見逃すことになる。

なんとうまいこと・・・

刑事というお仕事

刑事ってのは、くそみたいな思い出を貯め込んでいく仕事だよ―。

呉勝浩『法廷占拠 爆弾2』講談社2024年85頁

前作『爆弾』で特徴的だったのが、「緊張感」であった。

取調室の異様な雰囲気もさることながら、倖田など現場の警察官が爆弾と対峙する、一分一秒を争うあの緊迫感は、映画よりむしろ小説の方があったかもしれない。

今回も同じ爆弾を扱っているという点で、いつ爆発するかも分からない、そもそも爆発するのかさえ分からない不審物を相手にしながら、自分の命を懸けて仕事をする警察官には脱帽しっぱなしだった。

分かっているとはいえ、人の命がかかった判断が普通はできるわけがないのだ。

そういう意味で類家は、人の命がかかった現場でも迷わず合理的な判断ができるという点で異常なのだと思う。

それは人の命だけでなく、自分の命の場合もだ。

自分の命が危ない時に、他のことを考えるのも難しいだろうに、他人の命を救う行動をするなんてどだい無理に決まっている。

それなのに行動する警察という仕事は、それが「仕事」であるからできる、という場合もあるのかもしれない。

普段はできないようなことが、仕事だとできてしまう。

その心当たりがある人は多いと思う。

パワーアップしたスズキタゴサク

「あれは、もっと厭らしい。対話自体が目的だった気もします。対話と、それによる改変」

呉勝浩『法廷占拠 爆弾2』講談社2024年307頁

スズキタゴサクはもう完全に佐藤二郎だと思って読んでいたが、つ、強すぎる・・・

結局ほんとなんだかんだ言って全部お見通し。

警察が一生懸命、柴咲のプロファイリングをしていたころ、このスズキタゴサクだけは彼の正体を見抜いてたんではないか、と思わずにはいられない。

重要なネタバレになってしまうのでここでは避けますが、今回タゴサクの出番は多くありません。

だからこそ、彼が話し始めた時、スズキタゴサクの異様さが際立つわけです。

狡猾な立てこもり犯であったはずの柴咲が唯一スズキタゴサクにだけはペースを乱されていたように思います。

そして我々も、誰も予想の出来ない言動をとるスズキタゴサクですが、彼には私たちのことが筒抜けという恐怖。

立てこもり事件を題材にした小説はいくつかありますが、やはりスズキタゴサクという異分子がこの本をさらに面白くさせていることは間違いありません。

再度彼の帰還を待ってしまう。そんな自分がいます。

おわりに

映画『爆弾』をきっかけに手に取った『法廷占拠』

余談なんですが、この本を読んでいたころ会社で私はクレーム対応に追われていました。

先日私は後輩に顧客の引継ぎを行ったのですが、その後輩がミスをしたらしく(失念していたという類の単純なミス)

その件でお怒りの電話が私にかかってきたのです。

担当を変えてほしいだの、そもそも取引を他社に変更するなど、いろいろ言われたのでひとまず話を聞きながら、

私には何の権限もないし、私は何も悪くないと思いながらも、これって交渉では?と思って少し『法廷占拠』の気分を味わいました。

ネゴシエーションの基本は、自分の発言が相手をどのような行動に移させるのか、どのような感情にさせるのか、考えること。

何をどんな順番で言うのか。誰に指示を出すべきか。

顧客である取引先は、私の後輩に、感情のまま怒りをぶつけたらしいけど、私に対しては冷静にどこがだめだったのか、どうしてほしいのかを伝えてきてくれている。

クレームには間違いないけれど、うまくまとめれば、担当変更にもならずにやり過ごせるのではないかと思った。

類家ならどうする。スズキタゴサクなら何て言う。

そんなことを一通り考えて、『法廷占拠』の空気をほんの少し体験して、情けないことに結局よく分からなくなって、上長に繋いだ。

頭脳と頭脳のぶつかり合い。

そんなものは私には無理だ。相手の気持ちなんて分かりっこない。

だからこそ頭脳派の天才が出てくる本を読む。

自分にはなれないからこそ憧れる。

頭のいい二人

「ええ、はい、まあ、そうですね。あの人はご自身をオツムのキレる合理的な思考の人間だと思ってる節がありますけれども、やっかいなのはそこじゃない。彼は相手の意図を解くんです。人嫌いを気取ってて、じつは人間が大好きなんです。」

呉勝浩『法廷占拠 爆弾2』講談社2024年281頁

スズキタゴサクと類家に共通する頭の良さは、他人への興味から生まれている。

二人とも賢いがゆえにこの世の残酷な仕組みを誰よりも理解し、この世に絶望している節があるのにもかかわらず、結局は人間が大好きというのはいささか面白い発見です。

私のような凡人は、コンゲームなど天才と天才が頭脳で争うような物語が大好物である。

私のような凡人、だなんてスズキタゴサクみたいな言い回しになってしまいました。

本書では頭のよさを社会的知性と学校的知性の2種類に分けます。
学校的知性とは数字で測れる「IQや記憶力、学力」など、一人で完結する力のことだと考えてください。
社会的知性はひと言で言うと、他者の思考を読み、他者の信頼を得て、他者を動かす能力です。

安達祐哉『頭のいい人が話す前に考えていること』ダイヤモンド社2023年63頁

私たちの憧れる頭の良さとは、筆記試験などで得られる数字で証明される頭のよさでしょうか?

他者の思考を先読みし、騙し、他者を行動にうつさせる、これこそが私たちが憧れる頭の良さであり、スズキタゴサクであり、類家である。

『法廷占拠』でのスズキタゴサクは強い。誰よりも弱い立場にあるはずだったのに、動くのは口だけのはずなのに、それがものすごく強い。

彼は、住所不定、無職、本籍地不明の自称スズキタゴサクであり、爆弾により五~六百人の死傷者を出した犯罪者である。

分かってるようで今回何も分からなかったスズキタゴサクとは何者なのだろうか。

彼は悪人であるに違いないだろうが、普通の犯罪者とは何もかもが違う。

彼の登場を心待ちにしてしまう私がいる。読者がいる。

  1. 『爆弾』(呉 勝浩)|講談社 ↩︎
  2. 『法廷占拠 爆弾2』(呉 勝浩)|講談社 ↩︎

おすすめの本

『頭のいい人が話す前に考えていること』安達祐哉|要点・実践6選

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