【本屋大賞ノミネート10作品感想⑧】大臣暗殺事件×愛の物語『暁星』湊かなえ

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こってり

本屋大賞全部読む。

いよいよ8冊目。

満を持して湊かなえの『暁星』です!

よく考えると湊かなえの小説を読むのがずいぶん久しぶりだったことに気づきました。

まだ学生だった時に『告白』や『贖罪』『白雪姫殺人事件』『少女』このあたりが流行っていて、小説で読んだり映画やドラマを見たりしていた。

湊かなえ=イヤミスというイメージが強かったので、今回の『暁星』もそういった形のミステリーかと思いきや全然違って驚いた。

最近の湊かなえさんの書く小説は以前とはまた違った感じなのか?

しばらくミステリ畑から遠のいていたつけが回ってきている気がして怖いです。

しかし『暁星』とてもいい作品でした。

これも『汝、星のごとく』を連想させる、厳しい家庭環境で苦しみながら生きる男女の恋愛小説であった。

前半と後半をかけあわせることで一冊の小説が完成するという構成も特徴的で楽しめました。

また前半の主人公の父親が作家であり、文学賞について言及することも多い点は『PRIZE』を思い出させます。

今回本屋大賞ノミネート作品には共通する内容も多く登場するので比べながら読むのもまた面白いでしょう。

【本屋大賞ノミネート10作品全部読む④】彼女の最高傑作を、ぜひ読んでみたい。『PRIZE』村山由佳

2026年本屋大賞ノミネート作品

  • 「暁星」湊かなえ/双葉社
  • 「ありか」瀬尾まいこ/水鈴社
  • 「イン・ザ・メガチャーチ」朝井リョウ/日経BP 日本経済新聞出版
  • 「失われた貌」櫻田智也/新潮社
  • 「エピクロスの処方箋」夏川草介/水鈴社
  • 「殺し屋の営業術」野宮有/講談社
  • 「さよならジャバウォック」伊坂幸太郎/双葉社
  • 「熟柿」佐藤正午/KADOKAWA
  • 「探偵小石は恋しない」森バジル/小学館
  • 「PRIZE―プライズ―」村山由佳/文藝春秋

著者とあらすじ

▼著者                                          1973年、広島県生まれ。2005年、第2回BS-i新人脚本賞で佳作入選。07年、第35回創作ラジオドラマ大賞受賞。同年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。08年同作品を収録した『告白』でデビューし、「2008年週刊文春ミステリーベスト10」第1位、09年本屋大賞を受賞。また14年には、アメリカ「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のミステリーベスト10に、15年には全米図書館協会アレックス賞に選ばれた。12年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。16年『ユートピア』で山本周五郎賞を受賞。18年『贖罪』がエドガー賞(ペーパーバック・オリジナル部門)にノミネートされた。近刊に『残照の頂 続・山女日記』『人間標本』『C線上のアリア』などがある。1

▼あらすじ                                          「ただ、星を守りたかっただけ――」 現役の文部科学大臣で文壇の大御所作家でもある清水義之が全国高校生総合文化祭の式典の最中、舞台袖から飛び出してきた男に刺されて死亡する事件がおきた。逮捕された男の名前は永瀬暁、37歳。永瀬は逮捕されたのち、週刊誌に手記を発表しはじめる。そこには、清水が深く関わっているとされる新興宗教に対する恨みが綴られていた。また、式典に出席していた作家は、永瀬の事件を小説として描く。ノンフィクションとフィクション、ふたつの物語が合わさったとき見える景色とは⁉2

宗教二世、愛の物語

学校に居場所がないよりも、家庭に居場所がない方が、私には耐えられないはずだから。

湊かなえ『暁星』双葉社2025年221頁

『暁星』は二部構成になっていて、前半が「暁闇」で現役文部大臣を刃物で殺害した永瀬暁という男の手記という形をとっている。

そして後半の「金星」はフィクションであるとしながらも、永瀬暁(と思われる男性)と親交のあった女性の人生を描いた物語となっている。

後半の物語を読むことで前半に手記で描かれた物語のすべてが完成するという手法で描かれた小説であり、

前半で抱いた印象が後半ですべて覆されるのは読んでいてもとても見事としか言いようがない。

特に前半の文部科学大臣が殺害された事件というのは、まだまだ記憶に新しい奈良市で安倍首相が暗殺された事件を思い起こさせる。

さらにその動機が宗教であるという点も一致しているため、その事件にインスピレーションを得た小説として最後までいくかと思いきや、後半に良い意味で裏切られることになる。

物語の素晴らしさは言うまでもないが

ただ一つ気になったのが、この小説がセンセーショナルな事件に類似する小説であることや、二部構成であること、「愛の物語」であることがもう少し表紙に表現されていてもいいのではないかと感じた。

湊かなえの話題作あるということ聞いてはいたが、本屋大賞にノミネートしていなかったら多分私は読まなかったと思う。

(表紙の龍をみて勝手に時代小説だと思っていた。時代物が嫌いなわけじゃないんですが、湊かなえと時代物が結びつかない)

こんなに素晴らしい作品なのだから、もし仮に本屋大賞にノミネートされなかったとしても手に取らせてほしい。(なんて勝手な)

本書は宗教に翻弄される男女の物語でもあり、いわゆる宗教二世の物語である。

両親が宗教家である場合、子供は少なくとも子供時代はそれが当たり前であると信じざるを得ない。

少しずつ大人になっていく中で違和感を感じ始めるものの、宗教に取り込まれてしまっていてはなかなか抜け出せない、という場合も多い。

特にこの後半の主人公である星賀は家庭での居場所を確保するのに必死であり、常に母の機嫌を損ねないように生きている。

この母親も一種の毒親であろう。

『ありか』にも毒親が登場するが、一口に毒親と言ってもさまざまである。

嫌なことは本当の意味で忘れられない

前を向いて生きていくために、人間の脳は無意識のうちに「忘却」という機能を発動するのではないだろうか。(中略)忘却とは記憶を頭の奥深くに埋め込むこと。別の楽しかった記憶をかぶせ、誰の手も、自分のてすら届かないところに隠す。

湊かなえ『暁星』双葉社2025年237頁

つらいことがあったらそれを忘れようと努力するのは誰もが経験したことがあるだろう。

人に嫌味を言われたり、仕事でミスをして怒られたり、理不尽なクレームを受けたり、そうしたことは日常茶飯事で、じゃあどうすればいいかと言えば、忘れるしかない。

人に話を聞いてもらったり、何か趣味があって、嫌なことを忘れられるのが一番だと思うが、毎回そうするわけにもいかなかったり、時間がなかったりする。

だからただ忘れようと努力する。

「暁闇」「金星」どちらの章でも、両親と宗教に翻弄されながら自分の人生を生きることができない主人公が描かれる。

彼らは嫌なことをその都度忘れて生きてきたつもりでいたが、それは頭の奥底に隠していただけだった。

自分の思い、人生、守りたい人、そうした忘れたはずの思いは、いつの間にか積み重なっていて、それが最後に表出する。

忘れる、ってそうかもしれない。

仕事でのストレスやつらい思いは、忘れたつもりになっているだけで自分の知らないところで積み重なっていく。

いつ爆発してもおかしくないのだ。

「考え事してた。俺の前から消えた幸せは、金星のところに行ったって思えばいいんだ、って」                                                      どう返していいのかわからなかった。涙がこみ上げそうになるほど幸せな言葉なのに、悲しくなるのは、それでは二人同時に幸せになれないからだ。

湊かなえ『暁星』双葉社2025年275頁

前半の「暁闇」を読んだだけでは想像もできなかった展開が後半の「金星」に待っていた。

王道であり、報われない恋であり、家庭環境に翻弄されながらも力強く生きていくという愛の物語は『汝、星のごとく』を思い出させる。

自分一人では耐えられないことも二人でなら一緒に乗り越えていける。

それはどちらかというと一緒に過ごした時間は関係なく、同じ悲劇を共有したという一体感であった。

常に周りに翻弄され続ける彼らが真の意味で自由になることはできずに苦しみ続ける。

その苦しみがさらに二人の絆を深めることになる。

二人で遠出をするシーンは素敵すぎて震えた。これが夢ではなく現実であることに打ち震えた。

だがその後に待ち構えている悲劇を我々は知っている。

だからこそのこの二人のはかない関係が際立つし、最終的に事件を起こさなければならなかった理由が次第に明らかになっていく様子はとても見事であった。

私たちは日々前半の『暁闇』だけど見て判断することが多いように思う。

しかし、『金星』を読むことで『暁闇』の意味が全く違うものに変わってしまうように、物事において何が真実なのか、それを正確に把握することはとても難しいことなのだと思い知らされる。

一面だけを見て批判する人々は多い。

その奥にある物語に想像力を向けられるか、それが問われている。

  1. 著者紹介❘湊かなえ Kanae Minato 双葉社オフィシャルサイト ↩︎
  2. 暁星 – 湊かなえ (単行本) | 双葉社 公式 ↩︎

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