みなさんお疲れ様です。
本日は宮島美奈さんの『婚活マエストロ』をご紹介します。
『成瀬は天下を取りに行く』を読んで気になっていた作家さんです。
成瀬シリーズの最新刊もそろそろ出るようですね
この方の本はとってもよみやすくて、さっぱりしているのが良いですね。
逆にどろどろとした展開や、深い考察、どんでん返し的展開が好きな方にはあまりハマらないかもしれませんが
婚活の世界をのぞき見するにはちょうどよい小説になっていると思います。
著者とあらすじ
▼著者 1983年静岡県生まれ。京都大学文学部卒業。2018年「二位の君」で第196回「コバルト短編小説新人賞」を受賞(宮島ムー名義)。21年「ありがとう西武大津店」で第20回「女による女のためのR‐18文学賞」大賞、読者賞、友近賞をトリプル受賞。23年、同作を含む連作短編集『成瀬は天下を取りにいく』でデビュー。第11回「静岡書店大賞」小説部門大賞、第39回「坪田譲治文学賞」、第21回「本屋大賞」など15冠を獲得し話題となる
▼あらすじ 40歳のこたつ記事ライター・猪名川健人は、婚活事業を営む「ドリーム・ハピネス・プランニング」の紹介記事を引き受ける。安っぽいホームページ、雑居ビルの小さな事務所…手作り感あふれる地味なパーティーに現れたのは、生真面目にマイクを握るスーツ姿の美女・鏡原奈緒子。彼女は脅威のカップル成立率を誇る伝説の司会者“婚活マエストロ”だという。その見事な進行で、参加者は完全に鏡原の掌の上。シニア向け婚活パーティーから、琵琶湖に向かう婚活バスツアーまで、いつだってマエストロは絶好調だ。気付けば事業を手伝うことになった猪名川だが、鏡原への謎は深まるばかりで…。
退屈な日々を抜け出して新しい世界へ
これを手放したら、また単調な日々に戻ってしまう。一日外に出ただけで、急激に気が大きくなっていた。
宮島美奈『婚活マエストロ』文藝春秋2024年40頁
こたつ記事ライターの主人公は、基本が在宅ワークのため、外に出る機会も人に会う機会も少なく生きてきた。
私も、日々仕事をしていると会うのは同僚や取引先の人ばかりになるし、仕事が中心だから毎日、毎週ほとんど変わらない日々を過ごしている。
そんな単調な毎日を過ごしていた主人公が、あるきっかけで婚活の世界へと足を踏み入れることになる。
同じように毎日が退屈でしかたなかった主人公が新しい世界へ飛び込んでゆく~という物語は多いし、大体面白い。
やっぱりみんな生きていて同じ毎日の繰り返しに飽きている人は多いと思うし、何か変われるきっかけを待つ人も多いんだろう。
この小説も自分が変わる疑似体験ができる小説の一つで、主人公が婚活という世界を経て、様々な人と出会ったり、思わぬ自分の特技に気づいたり、
そんな姿を見ていると、自分がここではないどこかで生きる道もあるのだと教えてくれる。
私はどちらかというと、きっかけは待つだけじゃなくて、つくっていかないといけないと思っているけれど、
先ほど引用した主人公の言葉には、
なんとなく居心地が良くて続けてきた今の生活を実は、心のどこかでつまらなく感じていたということ。
今、自分の前に変われるチャンスが来たということ。
を、無意識に感じ取り、これを手放したらまた前の生活に戻ってしまう、
気が大きくなっているのは理解した上で、今行動すべきだと決意する主人公の気持ちがよく表れていて
気に入った一節です。
刺激的な展開を求めて・・・
40歳になるまで結婚をしたとも特に思わず行動もしてこなかった主人公が、婚活パーティーに参加したり、マッチングアプリを使ってみたり、実際に好きな人ができたりと様々な経験をしていく。
その過程はとってもおもしろくて
婚活をした方がいいかな~と思いつつ何も行動に移してこなかった私としても大変興味深い内容ではあったのですが
最後に何かもっと大きな展開を期待してしまっていたら特に何もなく終わってしまったのが少し物足りなく感じました。
婚活マエストロの鏡原さんとの関係性も
途中からフィクションだなあと思えてきてしまい・・・
この本は主人公の気持ちや仕事、舞台である浜松市などについてとっても丁寧な描写がされていて、実在の人物であるかのようにリアルに表現されていたから
余計に主人公の言動や鏡原さんと惹かれあっていく様子が
こんなにうまくいくのか?!
と思ってしまいました(笑)
いや、小説に何を求めるのかという点で私はフィクションとしての現実逃避を求めることもあるから、SFとか大好きだし、主人公と鏡原さんの関係性はステキだと思ったけど
40歳のこたつ記事ライターで人とのコミュニケーションも久しぶりで・・・という主人公にしては、けっこう相手をドキッとさせる言葉を言っていたりして
いや、ドラマとかだったら映えるとは思うんですけど、少し違和感を感じちゃいました(笑)
婚活、冷やかしは厳禁です
最終的な物足りなさはあるとしても、序盤からずっと面白かったという点では
どんでん返しにすべての面白さを持っていく(ために序盤~終盤のほとんどが単調な展開でつまらない)小説よりも私はこちらが好きでした。
最近の婚活はマッチングアプリなどをはじめ誰でも気軽に参加できるものになっていて、だからこそ嫌な思いをしたり、怖い経験をした人も多いはずです。
婚活マエストロと呼ばれる鏡原さんは、外から見ていて誰が誰のことを好きなのか「匂い」で分かる。
自分の気持ちや相手の気持ち、分からなくて当然の情報を匂いで把握し、恋のキューピッドとして相性の良い二人をさりげなく仲立ちしてあげる。
そんな人がいる婚活パーティーならぜひ行ってみたい!と思う。
私でも思うくらいだから、誰もがその能力を欲しがると思ったけど
この小説ではそんな鏡原さんの特殊な能力を利用してやろうとする悪い人は出てこない。
鏡原さんも主人公も婚活や婚活をする人に対してとても誠実に対応している。
例えば婚活に対して危機感や切迫感をかかえる参加者に対しては、婚活パーティーは非日常であるから、会話を楽しむつもりで参加するだけでも大丈夫だと提案したり・・・
婚活はあくまで自分の人生をよりよくするため楽しく人生を過ごすために必要であって、苦しむためのものではない。
鏡原さんの能力に頼ってたくさんのカップルを成立させていくことよりも、婚活において多くの人がより幸せになれるように、という方がこの小説が伝えるメッセージに近い気がした。
もし鏡原さんの能力を利用しようとする悪人が出てきたり、能力によって鏡原さんがどんどん有名になっていったりして波乱の展開があったりしたら
面白くなったとしても、この小説が伝えたいことが伝わりにくくなってしまうだろう。
本気で結婚を考えている人以外来てほしくありません1
という鏡原さんの言葉がそのまま伝えているように
婚活という場に、結婚に対して本気の人以外近寄ってはいけないのだ。
ところで、
もし私が鏡原さんのようなマッチング能力があるのなら
本を読みたい人とその人にピッタリの本をマッチングしてみたい・・・
もちろん匂いは分からないけれど・・・
- 宮島美奈『婚活マエストロ』文藝春秋2024年22頁 ↩︎



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