今年もこの時期がやって参りました。
2026年は4月9日に本屋大賞が発表されます。楽しみですね。
そもそも本屋大賞はどうやって選ばれる?
本屋大賞は、書店員の投票によって選ばれる賞です。
つまり私たち一般の読書民には投票権はありません。
本が売れない時代と言われて久しい昨今、書店から売れる本を作り出版業界を盛り上げようという思いから本屋大賞が生まれました。
直木賞や芥川賞などに代表される文学賞とこの本屋大賞が異なるのは、「書店員自身が自分で読んで「面白かった」、「お客様にも薦めたい」、「自分の店で売りたい1」と思った本を選び投票する」点にあるでしょう。そのため、大衆に受けのいい、読みやすい本や、人気作家さんの書いた本などが選ばれやすい傾向にあります。
だからこそ、本を読みたいと思った時に安心して手に取れる、その指標として本屋大賞が長く続いてくれることを祈っています。
でもできることなら私も投票してみたい・・・!
今回は大賞発表までに時間が無くなってしまいましたが、10冊読んだ感想と共に、ランキング予想をしていきたいと思います!
- 「暁星」湊かなえ/双葉社
- 「ありか」瀬尾まいこ/水鈴社
- 「イン・ザ・メガチャーチ」朝井リョウ/日経BP 日本経済新聞出版
- 「失われた貌」櫻田智也/新潮社
- 「エピクロスの処方箋」夏川草介/水鈴社
- 「殺し屋の営業術」野宮有/講談社
- 「さよならジャバウォック」伊坂幸太郎/双葉社
- 「熟柿」佐藤正午/KADOKAWA
- 「探偵小石は恋しない」森バジル/小学館
- 「PRIZE―プライズ―」村山由佳/文藝春秋

第10位『さよならジャバウォック』伊坂幸太郎
10位に選んだからと言って面白くなかったわけじゃ決してない。そもそも本屋大賞にノミネートする時点で至高の十冊なのだから、今回の伊坂幸太郎先生の新作もとても面白く読ませていただきました。 いつもの伊坂幸太郎節というか、つらいことが続いてもいつかは何らかの形で報われるというよりは、点と点がつながってちょっとした奇蹟が起きる。そんな予感を感じながら読むことができる本です。 個人的には中盤の北斎が25年ぶりに歌うシーンが胸熱で、このがピークになってしまったのが少し残念に感じました。最後のオチの部分は『砂漠』の時の様にスパイスにはちょうどいいけれど、やっぱり私は北斎の話に感動しすぎた感がありました。 でも桂凍朗の思想や、破魔矢と絵馬などのキャラクターが主人公とちぐはぐで面白く、そうした要素で一気読みはさせられる本です。 伊坂幸太郎さんはどんどんヒット作を書かれるので次回作もとても楽しみにしています。
第9位『探偵小石は恋しない』森バジル
誰が誰を好きなのか矢印で分かってしまう私立探偵の小石。と助手の蓮杖くんのバディ感など出てくるキャラクターが皆濃くて、アニメ化実写化どんとこいのエンターテインメント作品。 しかもそれだけではなく、本格ミステリが何そうにも積み重なって完成する重厚な物語でもあり、そこまで厚くない本にいくつのミステリが入っているんだと言うほどのボリューム感がくせになる。 偏見と叙述ミステリは本書のテーマの一つであり、私たちが普段から無意識に思い込んでしまっているということを、犯人と一緒にしっかりと突きつけられる、のにはとても逃れられないような強さがある。 ただ、こういうミステリにはあるあるだけど、事件が基本的にとても狭い人間関係の範囲内でしか起こらない。もちろん意外性はしっかりあり面白かったのだが、物語感が強くなってしまっていた気がする。 これはこれで面白いのでよかったらメディア化でもう一度拝みたいが、できれば映画にするとしてもすべての内容をしっかり長尺を取ってじっくりとやってほしい。
第8位『失われた貌』櫻田智也
大衆受けするミステリ作品って難しいのか、本屋大賞ではノミネートはするけれど大賞をよく取っているイメージがない。 『失われた貌』は先ほどの『探偵小石は恋しない』とは打って変わって本格ミステリであり、刑事が事件解決のために奔走するのだが、王道ミステリの真相が一つ一つ分かっていくあの快感はぞんぶんに味わえる一作となっている。 ただ一つだけ言わせてほしい。冒頭の主人公なぜあんなに妻の好意を無駄にするようなことをするの!結構ネットの感想とか見ていると主人公がよかったなどの声を耳にするが、私的には最初の印象が最悪だったことからこの順位に落ち着いている気がしなくもない! でも分かる。ひょうひょうとして熱心に事件解決を目指す熱血刑事ではないのに、人としてしっかりとした軸をもっているところ、観察眼と行動力を持ちながらも人にいばったり、ひけらかしたりしないところは、なんというかかっこいい。 ミステリは主人公のキャラクターが濃すぎても邪魔になるし、地味すぎても面白くない。このバランスがうまくとれた、それでいて徐々に真相が明らかになっていくあのドキドキ感を味わえる良い小説でした。
第7位『ありか』瀬尾まいこ
瀬尾まいこさんの小説はどれも本当に心があったまるというか、人生辛いことも多いけど人との縁を大切にして小さい幸せを大事に前を向いて歩こうと本気で思う。こういう本が好きな人に悪い人はいない。 と書いておきながら、私は普段あまり日常系ハートフルな物語を自分から手に取ることは少ない。だからこそこういう時くらい読んで感動させてくれという気持ちで読んでいます。 今回も他の作品に比べると人が死んだり大きな事件が起きたりしないのにこんなに心がゆさぶられる。 自分だけで抱え込んでしまっている主人公が、周りの優しさに触れながら今度は周りを支えられる強さを獲得していく。その様子がとても自然に描かれており、私は事裳を育てたことはないけど、ひかりの一挙手一投足もリアルなものだと推測する。 そんな日常の中にある幸せを感じさせ、自分の日常の色までも変化していく。そんな小説が持つ力を感じられる本だったし、普段読書をあまりしない友人にはまずは瀬尾さんの本をと勧めることが多い。 ただ順位が7位なのは個人的に刺激のある本が好きだからという一点に限る。
第6位『殺し屋の営業術』野宮有
まさに刺激に飢えたサラリーマンであるわたくしにふさわしい一冊でした。 営業をやっていたこともあるので、営業術の描写もとても楽しく読ませていただきました。まずトップセールスの営業マンが殺し屋の世界へ飛び込み、もちまえのセールストークで業界をのし上がっていくというストーリーがまず面白い。 殺し屋×営業という掛け合わせだけでもワクワクが止まらないのに、私が最も好きなのがライバルの美紅である。その才色兼備でマルチタスカ―のキャラクターもさることながら、なんといっても強い! マンガを少しでもかじった事のある人なら分かるはず、ガラスの仮面の亜弓さんのように、幽遊白書の戸愚呂弟のように、いかにライバルであり敵の存在が大事であるかを! そしてライバル・敵が強ければ強いほど我々の感情は激しく波打つのである。 ということで、『殺し屋の営業術』はその点すごく満足感が高かった。 本書もそのうち実写化しそうなエンターテインメント作品であり、とても読みやすく分かりやすく、それでいてドキドキ感もあるとても楽しい本でした。
第5位『暁星』湊かなえ
まず今の湊かなえさんってこんな感じの本を書いているんだ・・・というのが衝撃だったというか、イヤミスの女王というイメージが全く抜けていなかったため、今でも信じられないほどである。 まだまだ記憶に新しい安倍首相殺害事件とその背景にある宗教問題に切り込んでいるだけでなく、文学賞・文壇の世界を描いたり、かと思いきや愛の物語だったりと、一冊の本のなかで様々姿を変えていく。 前半「暁闇」、後半「金星」の二部構成となっており、後半を読み進めると前半の手記の意味が全く違う物語として浮かび上がってくるという仕掛けは見事であった。 宗教二世に生まれた主人公達の苦悩、生きづらい環境の中で出会った二人が寄り添い合う姿は2023年に本屋大賞を受賞した『汝、星のごとく』を思い起こさせる。 そのくらい素敵な二人のシーンがあった。 ただ一つだけ言わせてもらうとしたら本の装丁か帯にあの事件と似たシチュエーションから始まることや宗教二世の物語であることなどを分かるようにしておいたら、本屋大賞にノミネートしてなくても興味をもったのではないかと思う。 もしかしてそういう風にはできない何かがあるとか・・・?と勘繰りたくならなくもない。
第4位『PRIZE』村山由佳
なんといっても天羽カインのキャラクターがすばらしい。 キャラクター造形という意味で言えば本屋大賞ノミネート作品の中で断トツで天羽カインが印象に残った。 まず冒頭、天羽カインが編集者等相手にいびり散らすシーンから完全につかまれた。 ここまで自分の欲望をさらけだし、わがままを言っているようで実はちゃんと芯が通っている。凡人が遠慮して言わないだけのことを、天羽カインは堂々と言って見せる。 これこそフィクションの良さだと思ったし、最終的に天羽カインが嫌いにはなれないそんな魅力が彼女にはある。 自分がやりたいこと、やってのけたいことをはっきりと人に言うって本当に怖いことだと思っている。だからそれができる天羽カインは強い人なんだけど、やっぱり不安で自信をなくすこともある。 そんなギャップと彼女の生き様を楽しむ本書の魅力はそれだけではなく、読書好きなら一度は気になった事のある文学賞選考の裏側や、一冊の本ができるまでの工程を見ることができる。実際?の天羽カインの原稿やそれへの添削なども載せられていて、自分の知らない世界をのぞき見するような学びにもなる一冊となっている。 最後のシーンの盛り上がりもあり、全体的にバランスの取れた印象に残る本であった。
第3位『エピクロスの処方箋』夏川草介
この本も本屋大賞にノミネートしていなかったら手に取らなった小説の一つである。 医者の日常の物語と思いきや、めっちゃ哲学の話だった! 医者は大変な仕事であることなんて当然知ったつもりになっていたけれど、休日も電話に出ることが当たり前だったり、急な呼び出しにも昼夜問わずに応じないといけないなど、社会人を経験してからだと余計にハードだと感じる仕事を普通にこなしている。 医師たちの当たり前は世間とかけ離れすぎていて、「休日に電話がつながらない医師を育てても意味がない」的な言葉にはとても驚いたが、仕事として扱うものが違うのだ、私たちはそれに感謝しないといけない。 人の命を扱う人々がこういう哲学として命や死について考えているということが私たちにはとても頼もしく感じる。 いつも読むような刺激的な本とは全く異なるような設定であるのに、医師の日常と毎日を生きるマチ先生の思想は私にいつもとは違う刺激をもたらしてくれた。 普段はあまり読まない本であること、大きな事件が起きるわけではない日常の物語なのに、読み進める手を止められなかったこと、マチ先生の哲学は彼の経験からくる地に足のついたものでとても深い学びになったことなどが3位の理由である。
第2位『イン・ザ・メガチャーチ』朝井リョウ
朝井リョウさんは決してうまくいってるわけではない、少しこじらせた女性を書かせたら右に出るものはいない、と思っている。 『何者』を読んだのが最初だったと思うけど、そのころからずっと女性の描き方(女のあのいや~な感じの表現)が上手だなあと思っていた。なんで分かるんだよ! 『イン・ザ・メガチャーチ』は推し活文化にハマる人、かつてハマっていた人、熱中させる側の人、の3つの視点から物語が進んでいく。 何かを推すとはどういうことなのか、まじめに生きていても報われるとは限らないハードモードの人生の中でそれは救いにあたるのか。 自分を余らせたままつまらない人生を送るのか、お金や時間のすべてをつぎ込める何かを見つけるのか、どちらの方が幸せなのか。それらに関して本書は答えを用意しない。 3人の人生を通じて私たちは自分がどのように生きるべきなのか考えさせられることになる。視野を狭めることで得られる快楽もあれば、視野を広げることで見えてくるものがある。 そんなどちらが正解かなんて誰も教えてくれない世界の中で私たちはどのように生きていけばいいのだろうか。 読み終わった後、誰かに話さずにはいられない点や、物語のテーマがはっきりしていて、かつ考えさせられる構成であったこと、新しい視点に感じられたので第二位とさせていただきました。
第1位『熟柿』佐藤正午
『熟柿』を一位に選んだ理由は最も単純で、一番泣いたから、である。 もともと涙もろい性格なので、感動系の本で泣かないことはほぼないですが、『熟柿』はもう大号泣だったので自分の感性を信じることにしました。 この本に関してはあまり多くを語らないでおこうと思います。 とにかく最後のシーンまで読んでみてほしい。 『熟柿』というタイトル込められた意味を思い出すだけで泣いてしまいそうです。私もこの言葉を心に止めてこれからの人生に挑んでいきたいと思った次第です。
おわりに
正直7位くらいからから3位くらいまではほぼ同じ順位と思ってもらって構わないです。というか全部面白かったし、何よりこの二か月間、10冊の中からどの本を選んでも面白いことが保証されているという状況が異常なような気もしてきました。
本当に毎年全部面白いので、普段本を読まない方も、毎日読書をする方も、半年に一冊くらい思い出した程度に読む方も、みんな本屋大賞から入るといいと思います。
これほど誰にとっても面白い本を10冊ちょうどよく選んでくれる賞は他にはないと思います。
どの本が面白いかなんて、いつ読んだか、その時の自分のコンディションで大きく変わります。みなさんがこの10冊をどのように読んだのか、どの本がいいと思ったのか、ぜひ周りの人と共有してみてください。
思ったよりも人と自分の感性が違うことに驚くと思います。自分が世間とどの程度ずれているのか、4月9日の大賞発表の日が待ち遠しいです。



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