さて、今年も本屋大賞のノミネート作品が発表されました!
芥川賞、直木賞とあまたの文学賞がある中で、書店が本をさらに売るために始めたという本屋大賞は、われわれ一般人にも親しみやすい賞であると思います。
特に本屋大賞1位を取った作品に外れはなく、毎年とても楽しみにしています。
この本屋大賞、毎年10作品のノミネート作品が2月に発表され、今年は4月6日に大賞と10位までのランキングが発表されます。
正直、細かいランキングにはあまり興味がないというか、それは本の面白さは実際読む人によってかなり異なるからですが
しかし、年に一度面白い本を集めてあれやこれやと感想を言い合うというエンタメ的楽しさがあることは否めません。
また、普段は選ばないような本を読むことができるのも本屋大賞のいいところでしょう。
私は投票権のある書店員ではありませんが、勝手に10冊を読み感想を書いていきたいと思います。
私と同じように10冊読んで頼まれてもいないのにランキングを付ける方、気になる本だけ手に取って読んでみる方、はたまたこれからどの本を読もうか決める方、
ネタバレありですが、ぜひお付き合いください。
また、今回最初に取り上げる『殺し屋の営業術』は本屋大賞ノミネートが発表される前にすでに読んでいたので、あっさりといきたいと思います。
- 「暁星」湊かなえ/双葉社
- 「ありか」瀬尾まいこ/水鈴社
- 「イン・ザ・メガチャーチ」朝井リョウ/日経BP 日本経済新聞出版
- 「失われた貌」櫻田智也/新潮社
- 「エピクロスの処方箋」夏川草介/水鈴社
- 「殺し屋の営業術」野宮有/講談社
- 「さよならジャバウォック」伊坂幸太郎/双葉社
- 「熟柿」佐藤正午/KADOKAWA
- 「探偵小石は恋しない」森バジル/小学館
- 「PRIZE―プライズ―」村山由佳/文藝春秋
著者とあらすじ
▼著者 1993年福岡県生まれ。長崎大学経済学部卒業。2018年第25回電撃小説大賞で選考委員奨励賞を受賞し作家デビュー。以降の著書に『愛に殺された僕たちは』『ミステリ作家 拝島礼一に捧げる模倣殺人』『どうせ、この夏は終わる』等。「少年ジャンプ+」では漫画原作者として『魔法少女と麻薬戦争』連載中。
▼あらすじ 「営業ノルマ」は、2週間で2億円。
稼げなければ、全員まとめて地獄行き。営業成績第1位、契約成立のためには手段を選ばない、凄腕営業マン・鳥井。
アポイント先で刺殺体を発見し、自身も背後から襲われ意識を失ってしまう。
鳥井を襲ったのは、「ビジネス」として家主の殺害を請け負っていた「殺し屋」だった。
目撃者となってしまった鳥井は、口封じとして消されそうになる。
絶体絶命の状況の中で、鳥井は殺し屋相手に「ここで私を殺したら、あなたは必ず後悔します」と語り出す。 「今月のノルマはいくらでしょう? 売上目標は?」
「契約率は25%……、残念ながら、かなり低いと言わざるを得ません」
「どうしてこんな状況になるまでプロの営業を雇わなかったんですか?」 そう……これは商談なのだ。
研ぎ澄まされた営業トークを矢継ぎ早に展開し、場の空気を掌握する鳥井。 「あなたは幸運です。私を雇いませんか? この命に代えて、あなたを救って差し上げます」契約成立。鳥井は、殺人請負会社に入社することに。
前代未聞の、「命がけの営業」が始まる――。 常識を覆す発想から走り出す、ジェットコースター・ミステリー!
現実逃避小説として
物欲も、性欲すらもなく、ただ淡々と目の前のノルマに向き合うだけの日々。その繰り返しの中でいつか朽ちていくのだと思っていた。それを当然のものとして受け入れていた。
野宮有『殺し屋の営業術』講談社2025年166頁
仕事とは、つまり繰り返しである。
毎日同じ時間に出社して同じルーティンワークをこなして、突発的に発生する仕事さえも日常に過ぎず、終わらせたかった仕事の半分も片付かないまま退勤し、また次の日の同じ時間に出社する。
その繰り返しである。
営業であれば、目指すべきノルマ、今は目標と言われることが多いが、
毎週、毎月、数字を見つめ、今月の目標を達成したら、今度は次の月が始まる。
終わりのない日々の繰り返し。
そして特に、叶えたい夢も、プライベートでやりたいこともない。やる気も起きない。
そんな日々を過ごす社会人は意外と多いのかもしれない。
主人公の鳥井はトップセールスマンだが、仕事は順調なのに満たされない人生を送っている。
そんな鳥井に転機が訪れる。
本書は、退屈な日常を送り続ける私たちにとっての現実逃避小説としても読む価値がある。
鳥井は殺し屋業界へと足を踏み入れていく。
この営業×殺し屋という、ありそうでなかったテーマのかけ合わせによってさらに物語は加速していく。
どこかにある天職
「だってあんた、ずっと楽しそうだもん」 楽しそう?十数年も営業成績一位を取り続けて、何百人もの同業者から賞賛の拍手を浴び続けてもなお、生の実感を得ることができなかったこの自分が?
野宮有『殺し屋の営業術』講談社2025年134頁
仕事は楽しくなくてあたりまえじゃない?
そんな言葉を聞くたびにやるせない気持ちになっていた。
楽しい仕事は存在する、楽しく仕事をすることは可能だと私は思っている。
この話はまたどこかでするとして
トップセールスとして活躍しながらも生の実感を得られなかった鳥井は、殺し屋業界で2億円という強烈なノルマを課せられたことにより、覚醒していく。
なにより仕事を楽しむようになる。
ある意味鳥井は(不本意な形であれ)転職したのだとも言えるし、それによって彼は天職に出会ったとも考えられる。
これまでに培ってきた営業スキルを駆使しながら、物騒な殺し屋業界をのし上がっていく鳥井は、
その丁寧な言葉遣いも相まって、とても不気味な存在でありながら、私たちは楽しそうに仕事をする彼の姿から目を離せない。
そんな鳥井のキャラクターと対になる存在、つまりライバルも登場し、本書はさらに盛り上がっていく。
ここでは伏せるが、このライバルとの最後のシーンは映像映えする素晴らしいものだった。
鳥井がただのトップセールスではなく、殺し屋の一員としての才能が開花したことを見せつけられたいいシーンだった。
小説を読んでいながら、ここまで鮮明に映像を浮かび上がらせる体験はそうそうできるものではないだろう。
自分の武器を生かせる場所へ
ここは訪問相手の玄関先やリビングであり、企業の応接室でもある。何百、何千回と繰り返してきた商談と何も変わらない、鳥井の主戦場だ。
野宮有『殺し屋の営業術』講談社2025年49頁
読んでいてわくわくする。
それは鳥井が逆境に立たされながらも、自分の武器を最大限に生かして戦うその姿に、私たちは憧れを抱くからだろう。
『殺し屋の営業術』は、今私たちが生きるこの世界では役に立たない(または平凡な)スキルや知識が、別世界に行った途端、価値のあるものに変わるという、
近年流行している転生ものや、タイムスリップもの1に通じる王道的な面白さがあると思う。
本書は江戸川乱歩賞を受賞しており、ミステリーと思って読む人も多いかと思うが、どちらかというと本書で繰り広げられるのはコンゲームという騙し合いであり、またそれが特徴でもある。
営業×殺し屋というテーマの掛け合わせが秀逸であり、展開も王道そのもので読んでいてわくわく感がある。
それでいてラストの主人公のダークな一面がアクセントになっており、私はとても好きだった。
今年の本屋大賞、私はちゃんとランキングをつけられるだろうか。
- 「JIN‐仁-」(私はドラマで見た)などはまさにその典型で幕末にタイムスリップした現代の医師が当時の人々を現代の医学をもって救う、という話である。仁先生の持つ医学知識は現代では平凡であっても江戸時代では歴史をも変えかねない力を持つものであった。 ↩︎



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