【本屋大賞ノミネート10作品感想⑩】大きな子供として親を乗り越え「未来」を生きる『ありか』瀬尾まいこ

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こってり

本屋大賞ノミネート全部読む。

いよいよラスト10冊目です。

瀬尾まいこさん、少し前にトークショー&サイン会でお見かけしているのです。

仕事終わりにたまたま立ち寄った本屋さんで、人が集まていたのでなんだなんだと覗いてみれば、瀬尾まいこ先生が来ているではないですか。

偶然こんなすごい作家さんに会えるなんて~とサインも欲しかったのですが、人が多くてすごく並ぶということだったので泣く泣く諦めて帰ったという思い出があります。

その時に買おうか迷って混んでいたので買わなかった本がこの『ありか』です。

本屋大賞ノミネートによく選ばれるのは、瀬尾まいこさんが書くようなハートウォーミングな作品であると勝手に思っていますが、噂にたがわぬ良い作品でした。

私はどちらかというとエンターテインメント作品や狂気じみた人が出てくる作品を好んで読むことが多いので、本屋大賞をきっかけにしないとこういう優しい日常系の作品は読みません。

これはこれで読む機会を与えてくれてありがとうという思いです。

でもなんだかんだでいつも面白く読んでいます。

2026年本屋大賞ノミネート作品

  • 「暁星」湊かなえ/双葉社
  • 「ありか」瀬尾まいこ/水鈴社
  • 「イン・ザ・メガチャーチ」朝井リョウ/日経BP 日本経済新聞出版
  • 「失われた貌」櫻田智也/新潮社
  • 「エピクロスの処方箋」夏川草介/水鈴社
  • 「殺し屋の営業術」野宮有/講談社
  • 「さよならジャバウォック」伊坂幸太郎/双葉社
  • 「熟柿」佐藤正午/KADOKAWA
  • 「探偵小石は恋しない」森バジル/小学館
  • 「PRIZE―プライズ―」村山由佳/文藝春秋

著者とあらすじ

▼著者                                                   1974年大阪府生まれ。2001年、「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し、翌年作家デビュー。2005年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、2009年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞、2019年『そして、バトンは渡された』で本屋大賞を受賞。2020年刊行の『夜明けのすべて』は映画化され、ベルリン国際映画祭フォーラム部門に正式出品されたほか、数々の映画賞を受賞するなど、大きな話題となった。他の作品に『図書館の神様』『強運の持ち主』『優しい音楽』『あと少し、もう少し』『傑作はまだ』『私たちの世代は』『そんなときは書店にどうぞ』など多数。1

▼あらすじ                                                 母親との関係に悩みながらも、一人娘のひかりを慈しみ育てる、シングルマザーの美空。
義弟で同性のことが好きな颯斗は、兄と美空が離婚した後も、何かと二人の世話を焼こうとするが――。本屋大賞受賞作『そして、バトンは渡された』、ベルリン国際映画祭フォーラム部門正式招待&日本アカデミー賞優秀作品賞原作『夜明けのすべて』など、人々のかけがえのない関係性を紡ぎ続けた瀬尾まいこが描く、あなたの小さな、でも確かな支えとなる感動の物語!2

毒親との付き合い方

子供が生まれて親の気持ちがわかる。そう言うけれど、私は子どもが生まれて、親の気持ちがさっぱりわからなくなった。

瀬尾まいこ『ありか』水鈴社2025年73頁

主人公はひかりという一人娘がいるシングルマザーである。

そして、唯一の肉親である母親は、不仲というわけではないが、いわゆる毒親であり、育ててもらった恩を返すことを何かあるたびに強要してくる。

子供が生まれて、親がどんなに大変な思いをして自分を育ててきたのか分かるだろうと思っていたら、逆になぜそんなことを子供に言うのか理解できなくなった、と主人公は考える。

こんなに可愛くて愛おしくて、この子が幸せになるためならば何でもするという気持ちにはなるが、この子が大きくなってから何かを返してもらおうなんてとても思わない。

自分の母親は根本的に子どものことが好きではなかったのだと気づくのである。

「じゃ、どんなことが正解なの?」

「成長した子どもが、大人になってから親の子育てを肯定できるかどうか」

辻村深月『噛みあわない会話と、ある過去について』2021年講談社112頁

子どもが親に恩を感じるのは勝手だが、それを親から強要されるのは違う。

子育てに正解なんて存在しないし、であるならば親の子育てをどう思うのも子どもの勝手である。

しかし、母親の呪縛はとても強い。

主人公はなかなかそれに逆らうことができない。

血のつながり以上に、母親との関係は深く、断ち切ることが難しい。

しかし自分勝手で自分本位な母親なのだ、自分も同じように自分本位で動くしかない。

26歳子一人の人生

「(前略)私たちが会いたくて会うのに、誰の何を気にする必要があるの?」

瀬尾まいこ『ありか』水鈴社2025年327頁

瀬尾まいこさんの本を読むと、人との縁が本当に大事なものであることをいつも思い出させてくれる。

そしてその縁は自分から作っていくこともできると。

義理の弟である颯斗君は正直存在ができすぎていると最初は思ったが、

ただ単に子供が好きで、一度できたせっかくの縁をなかったことにしたくない、そういう思いがあり、主人公はその思いに何度も救われることになる。

そんなことよりも主人公26歳で自分と年が近くで驚いた。

いや、世間的にはそんなに驚くことではなくて周りにも結婚して子供を産んで育ててる子はたくさんいるし、

確かに20歳で子供産んだ主人公は早い方だとは思うけどすごくめずらしいというわけでもない。

だた、読み進めていて勝手に年上だと思っていたから途中で26歳と出てきて少しフリーズした。

自分みたいに感情的じゃなくて、一人で自分以外の子どもを育てていて、働いて、友人と遊ぶんだり旅行したりせずに生活している、

ということを考えると、子供を産むと本当に生活が180度変わってしまうと感じた。

今の私の生活、つまりすべて自分のために働いて、自分のために時間を使って、自分のために好きな場所で好きなことをするというのはとても贅沢なことのように感じた半面、

子育ては大変だろうけどもそれだけ別次元の幸せがそこにあるということも本書から学んだことの一つだ。

そう考えると、人生はどう転んだとしてもあながち悪いものではないかもしれない。

大きな子供の「未来」

「すごくない子どもなんていない。子どもがいなけりゃ未来は真っ暗だよ。明日は子どもにかかってる。(中略)子どもは想像もつかない未来そのものだよ」

瀬尾まいこ『ありか』水鈴社2025年157頁

年齢を重ねてはじめて分かったことがある。

それは可能性もしくは選択肢がだんだん自分の手から離れていっているということである。

若いというのはそれだけで何にでもなれる可能性を秘めている。

行こうと思ったらどこへでも行ける。なろうと思ったら何にでもなれる。

そんな選択肢の多い状態から、年を取るたびに一つ一つ選択肢を奪われていく、その気力までもなくなっていく、そんな感じがする。

だから世の中で一番、様々な可能性にあふれ、将来に希望があるのが子供なのである。

彼らは未来であり、私たちは未来を守らないといけない。

「子供は宝です。子供は可愛い、とか純粋だ、とか清らかだ、とかそういうことではまったくなく。可愛くなくても清らかじゃなくても、生物の理屈から言って、そうなんです」

伊坂幸太郎『さよならジャバウォック』双葉社2025年34頁

『さよならジャバウォック』の桂もなぜかここにこだわっていた。

もちろん生物として子孫を残さないといけないから子供を守るべきというのが私たちに生物として埋め込まれた機能であるのは間違いないが、

子供からはそんなことは関係なく「未来」を感じるのである。

だが、私は私たち大人に「未来」が全くないわけではないと思っている。

やりたいことなんていくつになってからでも始められるし、お金があるならなおさらできる可能性は高い。

ただ、熱量が少なかったり、情熱をもって打ち込むことが大人になると難しくなることが多い。

環境や金銭面の問題というよりも気持ちがついていかない、これが老化なのかもしれない。

だが、この気持ちの問題さえクリアできれば私たちは大きな子供として可能性にあふれた人生を送ることができるだろう。

人生、いつどこで何が起こる変わらない。今できること、今やりたいこと、今会いたい人がいるのならばすぐに行動に移すのが吉である。

  1. ありか – 瀬尾まいこ | 水鈴社 ↩︎
  2. ありか – 瀬尾まいこ | 水鈴社 ↩︎

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