みなさんお疲れ様です。
綿矢りささんの本、そういえば読んでなかったなあと思い
何から読もうかなあと思い
「かわいそうだね？」
というタイトルが、読んだこともないのに綿矢さんの本っぽくて購入しました。
このセリフを主人公が言われる側なのか、
主人公が言う側なのか気になって読み進めましたが
人間が何かを決断するまでの葛藤がとっても丁寧にリアルに描かれていて
思っていたよりもすっきりとした読了感でした。
二篇が収録されてましたので、今回はひとつずつの感想です。
高帯もきれい・・・
著者とあらすじ
▼著者 1984年京都府生まれ。
「インストール」で第38回文藝賞を受賞しデビュー。
「蹴りたい背中」で第130回芥川賞を
史上最年少・19歳で受賞する。
他著書に『夢を与える』『勝手にふるえてろ』など。
▼あらすじ 緊急事態に彼はどちらを助けるんだろう――私？それとも元彼女？28歳の樹理恵は無口だけど頼れる彼氏・隆大との交際が順調、百貨店での仕事も順調で幸せな日々。ところが彼が、無職で家賃が払えなくなった元彼女・アキヨを助けるため自宅に居候させると切り出したことで暗雲が……。彼が好きなのは私だって言うけれど!?（出版社より）
自分勝手な人＝他人に興味がない人
みんな好き勝手やればいいのだ。私だけこらえる必要なんかない。
綿矢りさ『かわいそうだね？』文春文庫2013年136頁
作品自体は2013年出版（文庫）のため、初出はもっと前の本書。
10年以上前の作品でよくある私たちの日常を切り取った作品なのに、全く古臭くない。
途中でスマホじゃなくてガラケーが出てこなかったら普通に新刊のつもりで読み進めたと思います。
男女の関係や友達関係の在り方というのはそれだけ普遍的なテーマなのかもしれません。
さて、まず取り上げる「かわいそうだね？」の主人公は突如、
自分の彼氏が、お金も住む場所もない元カノを部屋に住まわせることになった、という状況に置かれます。
どう考えても嫌な状況だけど
主人公は最初、相手の言分を聞いたうえで、この状況は正常なものであると思いこもうとする。
けど途中で気づきます。
あれ、彼氏も元カノもめっちゃ自分勝手なだけじゃない？と
じゃあ、私も勝手にしていいはずだ、と
人間はどこまでいっても主観でしかものを考えられない
だから、自分中心になってしまうのは仕方がないのかもしれない。
「私はね、あなたに興味がないのよ」
といったアキヨのセリフは、自分勝手に生きることと
他人に興味をもたないことが同義であることをよく伝えている。
人のことを気にしない人、周りを見ていない人、気づけない人
は職場にもいるけど、空気が読めなかったり自分の世界に入り込んだりしがちだから
自分勝手に映るかもしれない。
でも案外本人は楽しそうだ。
だから、そんな生き方は本人にとっては悪くないということが
逆にちょっと悔しくもある。
かわいそうな人はいない？
相手を憐れんでから発動する同情心は、やはりどこか醜い。
綿矢りさ『かわいそうだね？』文春文庫2013年153頁
小学生の頃、通学路の脇で猫が死んでいたことがあった。
道路でひかれたと思われるその猫をみて「かわいそうに」と思っていたら
一緒に歩いていた友人が、死体をみてかわいそうと思うと呪われるよ、と言った。
それ以降、何かを「かわいそう」と思うことは悪いことであるような気がして、言わないように、思わないようにしてきた。
「かわいそう」と思うことに抵抗のある人は他にもいるかもしれない。言われた方もなんとなく嫌な気持ちになるのがこの言葉だ。
この本を読んで、「かわいそう」と思うこと自体に罪はないけど
「かわいそう」という思いからくる行動には醜さがある、と知った。
それはその行動が結果的に、本心からくるものではないからかもしれない。
気持ちの伴っていない行動は、必ず相手にも伝わってしまう。
困っている人はいても、かわいそうな人なんて一人もいない1。
というのは確かに正しい気がする。
ところで、
この前会社の先輩が、道路の隅で死んでいる猫を見かけたらしい。
猫が大好きな先輩は、たぶん死んでいる猫のことを「かわいそう」と思ったのだろう、自治体の窓口に連絡して適切な処理をしてもらったと聞いた。
この時の先輩の行動は醜いだろうか？
「かわいそう」からくる行動で、誰かが助かるならばそれでもいいのか？
一筋縄ではいかない「かわいそう」
使い方が非常に難しいよ・・・
- 綿矢りさ『かわいそうだね？』文春文庫2013年153頁 ↩︎
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